素因減額の話  弁護士 五十嵐 勇

「交通事故に遭う前からヘルニアを持っていまして・・・」
「以前医者の先生から『骨粗しょう症』と言われたことがあるんですよ。」

交通事故の相談を受けていると,こういった内容をよくお聞きします。
事故に遭う前から何かしら症状があってそれが事故によって悪化したような場合,何か影響はあるのでしょうか?

実は,これは「素因減額」という問題で,その寄与度に応じて損害賠償額が減額される可能性があるのです。

どういうことかというと,「もともと被害者が事故前から有していた要因が損害の発生・拡大に影響を与えたのだから,一定の部分を加害者側の責任から外すことが公平だろう」ということです。

では,どういった場合に「素因減額」がなされるのでしょうか?

まず,事故前から疾患が存在していた場合は,その疾患が損害の発生拡大に寄与していることが明白かどうか等を検討して判断されます。疾患があるから直ちに素因減額がなされるわけではありません。

ただ,椎間板ヘルニアの裁判例については,その多くは素因減額が肯定され,2,3割の減額がなされています(損害賠償額算定基準 下巻 2009年・56頁)。事故前から椎間板ヘルニアを発症していたのかどうか,外傷性のものであるのかという事実認定がかなり重要であるといえます。

骨粗しょう症のように,ある症状が加齢とともに生じていたような場合は,事故前に疾患といえるような状態であったのかどうかがポイントになります。日本では800万人以上がこの骨粗しょう症であると推定されていますので,直ちに減額がされるわけではないのです。

例えば,脊柱管狭窄のように,脊柱管の大きさに個人差があるような場合があります。こういった症状については,いわば身体的特徴であって,素因減額がなされるべきではないという議論があります。
この点について最高裁は,被害者が平均的な体格に比べて首が長く頚椎の不安症がある方のケースで「被害者が平均的な体格ないし通常の体質とは異なる身体的特徴を有していたとしても,それが疾患に当たらない場合には,特段の事情の存しない限り,被害者の右身体的特徴を損害賠償の額を定めるに当たり斟酌することはできないと解すべき」であるとして,疾患に該当する場合には素因減額ができる旨述べています(最判平成8年10月29日民集50巻9号2474頁)。

このように,素因減額がされるかどうかは複雑な問題が含まれています。
今回は身体的要因について述べましたが,心因的要因についてはまた機会があればお話ししたいなと思います。

投稿者プロフィール

江畑  博之
江畑  博之
昭和56年新潟県燕市生まれ。平成14年新潟大学工学部化学システム工学科へ入学。卒業後、平成18年東北大学法科大学院入学する。司法試験に合格後は最高裁判所司法研修所へ入所し弁護士登録後、当事務所へ入所する。交通事故被害者が適切な賠償額を得られるよう日々、尽力している。
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江畑  博之

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昭和56年新潟県燕市生まれ。平成14年新潟大学工学部化学システム工学科へ入学。卒業後、平成18年東北大学法科大学院入学する。司法試験に合格後は最高裁判所司法研修所へ入所し弁護士登録後、当事務所へ入所する。交通事故被害者が適切な賠償額を得られるよう日々、尽力している。

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