飲酒運転でひき逃げをした場合の法的責任 弁護士 五十嵐

先日、タレントが飲酒運転をして人身事故を起こし、その後現場から立ち去るという飲酒ひき逃げ事故で逮捕されたとのニュースがありました。非常に衝撃的なニュースでしたが、このような交通事故を起こした場合、どのような法的責任を負うのでしょうか。

刑事責任について

①自動車運転過失致傷罪

まず、自動車を運転していて、人にケガを負わせた場合、自動車運転過失致傷罪に該当します。なお、昔は業務上過失致傷と言いましたが、現在では法律が改正されています。

過失運転致死傷

第5条 自動車の運転上必要な注意を怠り、よって人を死傷させた者は、七年以下の懲役若しくは禁錮又は百万円以下の罰金に処する。ただし、その傷害が軽いときは、情状により、その刑を免除することができる。

 

②道路交通法違反(酒気帯び運転など)

そして、飲酒をして運転をした部分については、①に加えて、②道路交通法違反が成立します。この法律には「酒気帯び運転」と「酒酔い運転」とが定められているのですが、前者は呼気1リットル中アルコール濃度が0.15mg以上検出された場合に該当するもので、後者は、この呼気アルコール濃度で判断するのではなく、まっすぐ歩けるかどうか、受け答えがおかしくないか等客観的な状態から判断します。

酒気帯び運転等の禁止

第65条 何人も、酒気を帯びて車両等を運転してはならない。

     酒気帯び運転 3年以下の懲役又は50万円以下の罰金
     酒酔い運転   5年以下の懲役又は100万円以下の罰金

 

③危険運転致死傷罪

もし、かなり酔っぱらったような状態で運転して人を死傷させたという場合、上記①②ではなく、この③危険運転致死傷罪が成立します。アルコールの影響で「正常な運転が困難」な場合に成立するのですが、例えば、前方をしっかり見ることができないとか、ハンドルやブレーキの操作が思ったようにできない状態など、道路や交通の状況等に応じた運転をすることが難しい状態になっていることをいいます。

危険運転致死傷

第2条 次に掲げる行為を行い、よって、人を負傷させた者は十五年以下の懲役に処し、人を死亡させた者は一年以上の有期懲役に処する。

一 アルコール又は薬物の影響により正常な運転が困難な状態で自動車を走行させる行為

 

④道路交通法違反(救護義務違反)

そして、ひき逃げをした部分はどのような規定になっているかというと、自らの運転に起因する交通死傷事故があったときに、直ちに車両等の運転を停止して負傷者の救護等を行わなかったという救護義務違反に問われます。

このように、飲酒をした状態で交通事故を起こし、さらに逃走した場合には、重い罰則が定められているのです。

もし、自分が飲酒運転をしてしまったり、交通事故を起こしてその場から立ち去ってしまったという場合には、すぐに警察に連絡をしてください。

警察への連絡を含めて、今後のことに不安があるようでしたら、まずは当事務所にご相談ください。

 

損害賠償額に対する影響について

交通事故を起こして被害者にケガを負わせたり、自動車や自転車等に損傷を加えたわけですから、その分の損害賠償義務を負うことは言うまでもありません。

それでは、飲酒運転をしたことや、事故後に救護せずにその場を立ち去ったことは、損害賠償額にどのように影響するのでしょうか?

過失割合について

飲酒運転で事故を起こした場合、過失割合が重く(不利に)修正される場合があります。

交通事故実務では「民事交通訴訟における過失相殺率の認定基準 全訂5版」(東京地裁民事交通訴訟研究会編)を用いて、過失割合を定めます。この基準の中で、酒気帯び運転は「著しい過失」(事故態様事に通常想定されている程度を超えるような過失〔同書・58頁〕)に、酒酔い運転は「重過失」(著しい過失よりもさらに重い、故意に比肩する重大な過失〔同書・59頁〕)に該当するとされています。そして、これらに該当する場合は、5~20%程度重く(不利に)修正されています。

なお、飲酒運転をしたといっても、その事故態様、飲酒の程度、運転時の状態等によってその責任の重さは様々であるため必ず修正がされるとはいえませんが、修正される場合は多いといえるでしょう。

慰謝料の増額について

飲酒運転やひき逃げの場合は、慰謝料の増額事由になりえます。

実際、裁判例においても、「本件事故が被告Cの一方的な過失により発生したもので、かつ、本件事故が被告Cによる飲酒運転中に発生したものであることなどからすると」(大阪地方裁判所令和2年2月26日判決交通事故民事裁判例集53巻1号261頁)等と慰謝料額の認定にあたって飲酒運転をしたことに言及されることが多くあります。

またひき逃げの場合についても、「警察に発覚し厳しい処罰を受けることを恐れて救護することなく逃走している。」と指摘した上で「このような無責任かつ身勝手な自動車の運転による事故により亡太郎が受けた肉体的、精神的苦痛、余生の楽しみを奪われた無念さは察するに余りある。」(死亡事故について。札幌地方裁判所令和1年11月27日判決自保ジャーナル2065号127頁。ただしスマートフォンを操作しながらの運転だったという事案。)など、慰謝料額認定の考慮要素としていることは明らかです。

ただ、このような飲酒運転やひき逃げがあったとしても、必ず慰謝料額に影響があるとはいえません。慰謝料額は、加害者の運転態様の悪質性によって変わってくるからです。例えば、酒酔いなのか、酒気帯びなのかによっても変わってきますし、事故後に立ち去ったまま事故現場に戻らなかったのか、事故後に一旦は立ち去ったもののその後事故現場に戻って救護を試みたのかで、評価は変わってくるでしょう。

 

運転手が飲酒をした場合に同乗していた人の責任について

「一緒に乗っていただけであれば、運転手が事故を起こしても関係ないでしょ?」

と思われる方もいらっしゃるかもしれませんが、法律上、同乗者が責任を負う場合もあります。

刑事責任について

道路交通法では、以下のように規定されています。

道路交通法 第65条4項

何人も、車両(カッコ内省略)の運転者が酒気を帯びていることを知りながら、当該運転者に対し、当該車両を運転して自己を運送することを要求し、又は依頼して、当該運転者が第一項の規定に違反して運転する車両に同乗してはならない。

運転手が飲酒したことを知りながら、「家まで送ってほしい」等と頼んではいけないということですね。そして違反した場合の罰則としては、3年以下の懲役又は50万円以下の罰金などと定められています。

なお、「要求」や「依頼」をしていないものの、飲酒した運転手の車に同乗した場合は、幇助犯といって共犯として処罰される場合があります。

民事責任について

同乗していた場合でも、被害者に対して損害賠償義務を負うケースがあります。もっとも、単に飲酒運転をしている車両に同乗したというだけで責任を負うというわけではなく、運転手の飲酒及びその量の認識、運転手の状態及びその認識等によって変わってくるものと考えられます。

仙台地方裁判所平成19年10月31日判決判タ1258号267頁

このように、被告Eは、被告Lが飲酒運転する加害車両に同乗して運行の利益を受けるつもりで、その運転や飲酒を制止することなく、6時間以上もふたりで飲酒を続け、最後に飲んでいたクラブを出た時点で、相当量の飲酒をしていることを分かっていながら、運転を制止するどころか、自宅に送ってもらうよう頼んで、被告Lに加害車両の運転をさせた。その結果、被告Lは、アルコールの影響により正常な運転が困難な状態で、加害車両を運転し、本件事故を引き起こした。そうすると、被告Eは、少なくとも、被告Lが引き起こした本件事故によるF、Gに対する加害行為を援助、助長したことは明らかである。被告Eには、自分でも認めているとおり、原告らに対し、民法709条、719条2項に基づいて、被告Lと連帯して、本件事故により生じた損害を賠償する責任がある。

 

飲酒している人に車を貸していた人の責任について

酒気を帯びて車両を運転するというおそれがある人に車両を提供する行為も道路交通法で禁止されています。

道路交通法では以下のように定められています。

道路交通法 第65条2項

何人も、酒気を帯びている者で、前項の規定に違反して車両等を運転することとなるおそれがあるものに対し、車両等を提供してはならない。

車両の「提供」というのは、たとえば、車をどこに駐車してあるのか教えて鍵を渡すという行為も「提供」に該当します。

違反した場合は、車両を提供した人は、運転手が酒気帯び運転であれば「3年以下の懲役または50万円以下の罰金」に、酒酔い運転なら「5年以下の懲役または100万円以下の罰金」の罰則と定められています。

また、車両の所有者である場合は、自賠法に基づいて損害賠償義務を負います。そうでなくとも、状況によっては、運転手と共同で損害賠償義務を負う可能性も否定できません。

 

まとめ

このように、飲酒をした場合、ひき逃げをした場合は刑事・民事ともに様々な影響があります。過失割合など、ご不明な点がありましたら、弁護士にご相談ください。

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